貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

「ジェシカ嬢」
「はい?」

状況を理解しきれず、首をかしげるジェシカにフェルナンが微笑を向ける。

「先ほどのあなたの主張は、なかなかためになった」
「主張、ですか?」
「ああ。食べ物を無駄にしてはいけないという」

そこでジェシカがハッとした。同志を見つけたのだと気が付いて。
決してフェルナンの側にそんな強い思いはなく、半分は共感したものの、もう半分は彼女をフォローしようとしたにすぎなかったのだが。

「ですよね!! ああ、もったいない。本当にもったいない。作ってくださった方々に申し訳ない」
「ぷっ……くくく……」

再び戦の鬼と呼ばれる大柄のフェルナンが肩を震わせていることにも気付かず、ジェシカは嘆き続けた。


「ジェシカ!!」

ここまできてやっと娘の様子に気が付いたマーカスが、青ざめた顔で駆けつけてきた。

「も、申し訳ありません。娘がこんな……」

てっきりジェシカがしでかしたと思い込み、土下座でもしそうな勢いでやってきたマーカスを、フェルナンが手で制す。

「いや。やらかした輩は、とっくに逃げ出しているので。お嬢さんのせいではありませんよ」

そう言いながらフェルナンが誰かに合図を送ると、しばらくして楽団が少しばかり演奏の音量を大きくした。我に返った出席者達は、ちらちらとジェシカ達の様子を伺いつつも、その場を離れていく。

「で、ですが……」

あまりの惨状に狼狽えるマーカスに、フェルナンは堂々と言う。

「大丈夫です。お気になさらず」

34歳のフェルナンに対し、42歳のマーカスの方がずいぶん頼りなく見えてしまう。
自分はなにもしていないと自信満々のジェシカは、遅れてやってきた父親を見つめた……のは一瞬で、まだテーブルに乗っているデザートを、物欲しげに見つめた。

「本当に申し訳なかったです」

どうやら二人のやりとりは終わったようだ。
ことの次第を聞いたマーカスは、それでも娘にも悪いところがあった(主に食い意地が張っていたことについて)と謝罪の言葉を口にして、デザートを名残惜しそうに見つめるジェシカに〝諦めなさい〟と促しながら、会場を後にした。