貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

「ぷっ……くくく……」

その姿に、もう耐えられないと肩を震わせる人物がいた。
振り返ったジェシカの視線の先にいた大柄な男性は、ついには声を立てて笑い出した。

「ははは」
「だ、団長」

我に返った騎士は宙に浮いたままだった腕をやっと下ろし、助けを乞うような視線をその大柄な男に向けた。

「団長?」

ここにきて、ようやくジェシカの意識が料理から外れた。

「いかにも。騎士団長のフェルナン・タウンゼンドだ」
「騎士団長……」
「ジェシカ・ミッドロージアン嬢だな? お怪我はないか?」
「怪我……」

首を傾げつつも一応自身の手足を確認するジェシカを、フェルナンは見つめた。

「大丈夫そうです。あっ、でもお料理が……」

しゅんと悲しそうな顔をするジェシカに、フェルナンは再び肩を震わした。

「あなたの言うとおりだな。本当にもったいない」

〝でしょ?〟とでも言うようにジェシカはコクコクと首を振った。

「もう少し、周りが見えないものか?」

フェルナンは、ジェシカに向けていたよりも幾段も鋭い視線で、テーブルを倒した男達を見た。
何か言いたげだった彼らは、その視線の鋭さにぐっと息を呑んだ。次第に顔が青ざめていくのは仕方がない。戦の鬼とまで言われ、近隣諸国にまでその名を轟かせるフェルナンを知らない者は、この国にそうはいないのだから。

「も、申しわけない」
「不注意だった」

口々に言い訳をして、そそくさと引いていく彼らを、それでもまだ、フェルナンは鋭い視線で射抜いた。その間にやっと動き出した使用人達は、ジェシカから皿を受け取ると片付けを始めた。