「マジで?」
「そこまで進んでたのか!?」
「だから今朝の機嫌の良さ?」

我に返った団員達が口々に言う様を、フェルナンは余裕の表情で眺めていた。それもそのはず。独身を貫いてきた自分が、やっとこの人だという女性に出会い、短期間で婚約までこぎつけたのだ。全て自分の思い通りに。いや、思っていたよりも早かったかもしれない。

口々にいろいろと聞いてくる団員達に、フェルナンはジェシカとのこれまでを語って聞かせた。もちろん、彼女の不名誉になるような内容は除いて。



初めてデートをしてからというもの、フェルナンはジェシカに宛てて毎日手紙とプレゼントを贈った。つつましやかな暮らしをしてきたジェシカのこと。突然豪華なものを贈っても喜んではくれないだろうことは想像に易い。それどころか、自分だけが贅沢をしてよいものかと悩みかねない。
そこでフェルナンは、彼女が臆さないものを選んだ。協力者は二人の共通の友人であるロジアンだ。

最初は花束を贈った。
次に、みんなにも配れるようにと焼き菓子を多めに。
ジェシカは刺繍が得意だと知れば、少しだけ高級な糸のセットと数枚の布を贈った。ジェシカお手製のものを返してもらえるという自分の願望を満たす目的に加え、彼女としてももらうばかりじゃないと気を楽にしてもらうためだった。残った材料は、家族のために使ってもいいし、孤児院のバザーに出品するもよしと、ジェシカが自分に遠慮なく使ってよいとの配慮も忘れずに。

その合間で、数回デートにも誘い出していた。
近場だというのに、王都を歩いたことはほとんどないというジェシカに、最初は紅茶の専門店や雑貨店など、彼女が好きそうな店を選んだ。手ごろなものであれば、たとえフェルナンが金を払ってもジェシカはそこまで恐縮しないだろう。その絶妙なラインをいく店のチョイスは、ロジアンによるところが大きい。

しかし、想定内とはいえ、些細なものでもジェシカは盛大に遠慮した。

「私もいい大人だし、身分もある。若い女性に金を出させるなど、恥をかかさないでくれ」

と茶化して言うことで、渋々ではあったものの、ジェシカは引き下がってくれた。


領地をほとんど出たことのないジェシカにとって、フェルナンとのデートはいつでも新鮮で、心の底から楽しんでいることが常に伝わってきた。

ジェシカのぎこちなさは、すぐに解けた。もともと領内でたくさんの人と接してきた彼女だ。その性格は気さくで、人懐っこい。
フェルナンと出会ってすぐの頃から彼のことを〝友人〟〝同志〟などと言っていただけあって、慣れるのも早かった。その隙をつくようなフェルナンの甘い攻撃に戸惑い驚きながらも、拒否はしない。

そんな彼女に、フェルナンが〝いける〟と確信していたのは言うまでもない。まあ、手ごわい相手だったとしても、逃す気は一切なかったが。

こうして逢瀬を重ねていく中で、ジェシカの自分へ向ける思いが変化していくのをフェルナンは感じていた。

〝同志〟から〝気になる異性〟へ。

それは初めて接する大人の異性への憧れ、疑似初恋のようなものだったのかもしれない。けれど、抱いた思いは確かに存在する。ならば、このタイミングで攻めない理由はない。
フェルナンは早々にジェシカに思いを告げ、〝yes〟の返事を得ていた。