貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

抜け駆けは許さないとばかりに他の男達も次々に声をかけるも、もはや彼女の耳には届かない。今のジェシカには、料理のことしかないのだから。

「あら、これはさっきまではなかったわ」
「デザートも、そろそろいこうかしら?」
「はあ……チョコレートなんてはじめてよ」

ついにはデザートに到達したジェシカは、その夢のような光景にますますうっとりとして、その大きな瞳を潤ませた。

「ジェシカ嬢」
「私とも一曲」
「ええい、邪魔だ!! 私は侯爵家の人間だぞ」
「爵位など関係ない。選ぶのはジェシカ嬢だ」

それまで足元で静かな牽制を繰り広げてきた男達は、エイベルの抜け駆けと自分達の誘いに気が付かないジェシカに焦れて、明確な牽制のし合いに発展してしまった。
もちろん、チョコレートに魅せられているジェシカは気付きもしない。


そしてついに、ガシャンっとテーブルが倒されてしまった。
その時点で、さすがのジェシカもハっとした。

「何事だ」
「怪我人は?」

途端に見張りで立っていた騎士達が駆け寄ってくる。もとより、集団になっていることに気付いていた騎士達は、そこに注意を向けていたため、駆け付けるのが早かった。
群がる男どもの状態を確認しながら押しのけ、騒ぎの中心へ入ってくる。

やっとその先にいるジェシカの元に到着した騎士が、彼女に声をかける……より一足早く、ジェシカの悲痛な叫びが響いた。

「あぁぁぁ……」

まるで、最愛の者を亡くしたかのような嘆きに、〝え?〟〝怪我でもしたのか?〟〝ドレスを汚したか?〟と狼狽える男ども。

「け、怪我……」

気を取り直して尋ねようとした騎士の声を遮ったのは、それより大きなジェシカの声だった。

「もったいない!!」

今や、聞こえてくるのは楽団の奏でる調べのみ。辺りはすっかり静まり返っていた。