「つまり姉さんは、一応貴族の令嬢だというのに……」

(い、一応ってなんだと言い返したいのに、とても言えそうにないわ)

「黙っていれば美人だと言われる女性なのに……」

(し、失礼すぎる。けど、言い返せないわ)

「あろうことか、ズボンに着替え……まあ、これもおそらく男児用なのでしょうね」

(ば、ばれてる)

「リンゴの木に、堂々と登って……」

(ど、堂々と? 普通よ。いたって普通に登っただけよ)

「10個も収穫して……」
「そ、それは、子ども達のためにジャムとかおやつとかを……」
「そういうことじゃない!!」

無駄な足掻きを見せたジェシカを、オリヴァーが鋭く切り捨てた。

「ひゃっ、ひゃい」
「子ども達のために何かを作ることは否定しません。でも、そこじゃない。なぜ木に登ったか、です!!」
「ひゃっ、ひゃい」

(お、鬼がいるわ)

「おまけに、騎士の方からも見られたと」

ぎくりと肩を揺らしたジェシカを、オリヴァーが見逃すはずもない。

「姉さんは、どうしていつもそうなんですか!!」
「ま、まあまあ」
「父上は黙っていてください。優しすぎる父上に代わって、僕が言うべきことを言うので」
「は、はい」

(お、お父様、そこでオリヴァーに負けないでくださいよ!)

「どうして脚立を持ってきてもらうぐらい待てないのですか!?」
「きゃ、脚立ぐらい、必要なら自分で持ってくるわ」

そう答えた途端に、鋭さを増したオリヴァーの視線が刺さってくる。再びしまったと首をすくめるジェシカだったけど、もう遅い。

「そういうことではありません! まさか、脚立まで担ぐ人だったなんて……いいですか、姉さん。貴族令嬢というものは、ズボンなんて絶対に履かないんです。木登りもしません。脚立も担がないんです。脚立に登るのも、他の人にお願いするべきなんです」
「は、はい」

まくし立てるように言うオリヴァーに、もはや返事をするぐらいしかできない。

「姉さんが僕たち家族のために、本来ならしなくてもいい家事なとを進んでやってくれているともちろん知っています。いつも感謝をしています。ですが、それとこれとは別問題!!」
「は、はい」
「そんなはしたない姉さんの姿が知られれば、いくら見た目がよくても、嫁の貰い手なんて一切なくなりますよ!!」

オリヴァーの言いたいことは十分にわかる。はっきり言えない父に代わって嫌な役を買って出ていることも。

けれど……。

帰り際にフェルナンの言ってくれた言葉を心の中で反芻したジェシカは、思い切って自分の心の内を明かした。

「で、でも、残念だろうと何だろうと、これが私なの。ちょっと上手くごまかせたとしても、すぐにボロがでちゃうわ」
「残念だなんて、僕が言ったことはありますか?」
「え?」

(だ、だって、いつも私の言動に怒ってばかりじゃない)

「姉さんの言動は、正直はしたないと思っています」

(お、弟よ……何度も言われているとはいえ、正直すぎて胸が痛いわ)

「けれど、いくら回りが〝残念美人〟だなんて揶揄しても、僕は姉さんを残念だなんて思ったことは、一度だってありません!」
「オリヴァー……」

ジェシカは思わず涙ぐみそうになっていた。