その後も作業を再開した騎士達を眺めつつ、ジェシカと子ども達は室内遊びを楽しんでいた。

「いけない、もうこんな時間だわ」

自分が当初思っていた時間よりも遅くなってしまったと気付いたジェシカは、慌てて帰る支度を始めた。途端に寂しそうにする子ども達を〝またすぐに来るわ〟となだめるも、その表情はすぐれない。何回繰り返しても慣れない光景に、ジェシカは毎回胸を締め付けられていた。

「そうだわ。ちょうどリンゴがなっていたわよね? 今度はそれを使ったお菓子を作ってくるわ」

できればアップルパイを作ってあげたいところだが、それは材料費がかさんでしまう。ならば、リンゴを入れた蒸しパンがいいかもしれない。ドライフルーツを作っておくのもいい。それなら、少し多めにリンゴをもらって……

そうと決めたら、ジェシカの行動は早かった。早速許可をもらうと、他の職員が〝脚立を……〟と動き出すよりも早く駆けていく。もちろん、職員達もジェシカならそうするだろうとわかった上で、一応脚立をと言ったにすぎない。

子ども達の前だ。さすがにスカートではまずいとジェシカでも思ったのか、移動する途中で、共有の衣類としてしまわれていた男児用のズボンにするりと履き替えた。
小柄なジェシカのこと。ちょうどよいサイズ感だ。その姿を見たも大人達は、〝いつものことね〟と苦笑する。

おもしろ半分でついてきた子ども達に籠を持たせると、ジェシカはするするとリンゴの木に登った。この木には幾度となく登っている。すっかり慣れたもので、職員達は危なげなく見ていられる。
実を採っては籠係の子どもに手渡すこと数回。これぐらいでいいだろうと木を降りた。

「手伝ってくれてありがとう」
「どういたしまして」

難なく地に足をつけながら籠係に伝えたお礼に、思いもしない低音で返されたジェシカは、驚いて顔を上げた。

「団長さん!?」
「ああ」

フェルナンの腕には、最初に籠を預けておいたライリーが抱えられていた。これは一体どういうことかと首を傾げるジェシカに、ライリーが得意げに言う。

「途中からね、抱っこしてくれたんだよ」

そういえば、何個目からか届けに降りる距離が短かったような……と、ちらりとフェルナンを見上げるジェシカ。
(そうか。団長さんのおかげね)

「団長さんも、ライリーもありがとう」
「ああ」
「うん」

(この状況を見られていたと気付いても、全く動揺しないんだな)
フェルナンは心の内で苦笑した。