「それなら、今日はお話を読んで中で遊ぶことにするわ。それに、ほら。少しだけど、クッキーを焼いてきたの。後でみんなに出してあげましょう」
「いつもありがとうございます」

外に出られず退屈しがちな子ども達にとって、ジェシカの存在はよい刺激になる。令嬢らしからぬと言ったらその通りだけれども、彼女はここを訪れると子ども達と一緒になって全力で遊んでくれる、とてもありがたい存在なのだ。

「ジェシカお姉ちゃん!!」
「お姉ちゃん!!」

自身が幼い頃に父親に連れられてきて以来、大人になった今も孤児院の訪問を続けているジェシカ。時折入れ替わりのある子ども達だけれども、頻繁に来てくれるジェシカのことはすぐに覚えて慕っている。
この日も目ざとくジェシカの姿を見つけた子らが、一斉に声を上げた。

「こんにちは」

もう見つかったと笑みを浮かべるジェシカに、次々と群がる子ども達。彼女は一目でお古とわかる、若干薄汚れた服を着た子ども達を、避けることなく受け入れる。

「今日は外で遊べないんですって?」
「そうなの」
「つまんない」
「外がよかった」

口々に言う子ども達に、うんうんとジェシカも頷く。彼女自身、外で遊ぶことが大好きだっただけに、実感のこもった頷きぶりだ。
幼い日の彼女を知る職員は、そんなジェシカを微笑ましく見つめていた。

「そうよねぇ。その分、中でいっぱい遊びましょう」
「やったぁ!!」

早速、こっちに来てというようにぐいぐい手を引く子らに、ジェシカは素直に従った。ここにはそんな様子を目にしても、〝失礼ですよ〟などと止めに入る者はいない。
それは、このように過ごすことをジェシカ本人が望んでいるからだ。加えて領主であるマーカスも、娘のやりたいようにさせて欲しいと常々話していることもある。

勝手知ったるなんとやら。ジェシカは子ども達のやりたいように手を引かれているように見えて、実にさりげなく自分の行きたいと思った方へ誘導している。この時間帯、いつもなら本の読み聞かせをする頃合いだと読書スペースにたどり着くと、子ども達が見渡せる場所に座った。

「二冊、読もうかしら?一冊は私が選んだの。これなんてどう?」

あらかじめ考えておいた一冊を掲げてみせれば、子ども達は嬉しそうに頷いた。

「もう一冊はみんなに決めてもらいたいわ。私が用意したのがお姫様のお話だから、もう一冊は王子様とか勇者様、ああ、ドラゴンもいいわね。男の子が主人公のお話なんてどう?」

子ども達がもめないように、しかし押し付け過ぎない加減で選んで欲しい内容を示す。そうすれば、案外すぐにもう一冊が決められるものだ。

「じゃあ、読むわね」