しかし、あの騒動直後の言動に、さらに認識を改めさせられた。

ただでさえ慣れない夜会で、頼みの綱の父親は近くにおらず。知らない年上の男達に近付かれて、その挙句、彼らのあの失態。
普通のご令嬢なら、涙をながしていたかもしれない。そう、普通のご令嬢ならだ。

あろうこと、ジェシカの放った言葉は〝もったいない!!〟だ。
あの場にいた誰もが心中で〝何が!?〟と返していたに違いない。極めつけが、〝罰が当たるわよ反省なさい!!〟ときたもんだ。
相手が男だろうが、身分も年齢も上だろうが、彼女にとっては一切関係なかった。

その見た目とのギャップのせいか、呆けた男達が一言も反論できずにいた姿はあまりにもお粗末だった。まあ、反論したところで、正論を述べるジェシカに対して、せいぜい負け犬の遠吠えぐらいだっただろうが。

騎士団長という私の存在に、一瞬ジェシカの意識がこちらに向いたものの、彼女は終始料理を気にし続けていた。父親に連れていかれる、最後の最後まで。

「病弱で人見知りな令嬢? いやいや、彼女は誰よりも生命力にあふれた令嬢だな」

料理に向けられた彼女の恨めし気な視線を思い出しながら、思わず呟いていた。
見た目だけなら単なる美しいご令嬢だ。けれど、その内側にあのような激情を秘めているとは……なかなかおもしろい。

その後耳にしたのが、〝残念美人〟となんとも不名誉な彼女のあだ名だった。ある意味その通りな部分があるのだが、それが全てではない。

確かにジェシカは、他の令嬢が騒ぎ立てるような婿候補筆頭の男達は眼中になかった。澄んだ緑の瞳に映すのは、料理ばかり。その食べっぷりもかなりなものだった。
だが、〝残念〟とはどういうことか。

大人しく夫に付き従う女性を求める男からしたら、ジェシカの言動は程遠いものだっただろう。けれど、それで彼女を〝残念〟などと言うのはあまりにも失礼ではないか。と、現場での彼女の言動を見ていただけに、イライラしてしまった。

身分のある者は、多少食べ物が無駄になったところで気にも留めないだろう。まして、生産者のことなど考えたこともないはずだ。けれど、ジェシカは違った。

ほんの気まぐれで、ミッドロージアン家のことを調べてみた。すぐにわかったのが、彼女の家があまり裕福ではないという現状だった。
なるほど。だからこその言動だったのか。それから、父マーカスをはじめ、彼女の家族はずいぶんと領民から慕われていることもわかった。確かに、マーカスはいかにも人のよさそうな雰囲気だった。おそらく、彼女の家の貧困の理由は、そのあたりにあるのだろうと予想した。