貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

「あら? なにかしら?」

オリヴァーが不在の中、3人からのダンスの申し込みを断った時点で、ジェシカは面倒になっていた。
要は目が合うのがいけないのよと、窓の外を見ていたちょうどその時。おそらく、上の階からだろうか? 白い布がひらひらと舞ってきたかと思ったら、そのまま木に引っかかってしまった。

「大変!!」

あれだけオリヴァーに動くなと言われたことは、一瞬で忘れていた。
ささっとあたりを見回して、外に出られそうな窓を見つけると、足早に向かうジェシカ。なんとなく彼女の様子を目で追っていた男達の視線が、その様子を追う。あの天使の心を惹きつけたのは、一体なんだったのかと。
しかし直後、とある男がそれを遮り、まるで威嚇するような鋭い視線を向けられたため、男達はそそくさと視線をそらして他へ向かった。



「ハンカチ、のようね」

ちらりと二階を見上げれば、まさしく〝ああ……〟と嘆き声が聞こえてきそうな顔のご婦人がいた。おそらく、上の階の控室で休憩でもしていたのだろう。少し赤い頬は、飲みすぎてしまった証かもしれない。

ジェシカは自分の着ているドレスと靴を見下ろし、続いて木の全体像と引っかかったハンカチの位置を素早く目測した。

「いける!!」

オリヴァーがいたら間違いなく〝何が? そんなわけないでしょ〟と、冷めた目を向けられていただろう。だが、幸いなことに今弟はここにいない。

木登りは慣れている。それに、この木は自分にしたら低すぎるぐらいだ。靴は脱ぐとして、ドレスは濃い目の色だから多少の汚れは目立たないだろう。そもそも、汚してしまうような腕ではない。楽勝だ。

たかがハンカチ一枚と、鼻で笑う人もいるかもしれない。けれど、まだ使えるものをみすみす捨てるなんて、ジェシカにしたらとんでもないことだ。
おまけに、手元を離れたハンカチをずっと見つめ続ける女性の、あの残念そうな顔。なにか、思い出のある大切なハンカチなのかもしれない。そう思ったら、いてもたってもいられなかった。

ささっと木に近付くと、なんのためらいもなくポイっと靴を脱ぎ捨てたジェシカ。そのままするすると、それはもう危なげもなく手足を木にかけて登り、目的のハンカチを目指す。

「まあ」

やっとジェシカの存在に気が付いたのか、二階にいたご婦人が声を上げた。

「危ないわ」
「平気よ。私に任せて」
「でも……ああ……人を呼んでそちらに行くわ。動いちゃだめよ」

動いちゃだめもなにも、中途半端なこの位置にとどまり続けるのは、さすがに慣れたジェシカでも辛い。

「よし、あと少し」