貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

「あれは……」

オリヴァーの監視のもと、壁際に寄ってドリンクを堪能していた。
さすが王宮の夜会は違う。料理だけでなく、ドリンクも高級品が用意されており、ジェシカはまるで飲み切ってしまうのが惜しいとばかりに、ちびちびと口付けていた。

「オリヴァー? どうかしたの?」

「いえ。以前、父上が世話になった方が……」

「まあ。挨拶をしないと……あっでも、まだドリンクが……」

ドリンクの方が大事なのかと、ジロリと見てくるオリヴァーを、〝いいえ。ドリンクもよ〟という思いを込めて見つめ返すジェシカ。

先に視線を緩めたのはオリヴァーの方だった。緩めたというより、諦めたのだけれど。
ジェシカの主張ぐらい、言葉にせずともほぼ正確に伝わっている。本来、この姉弟はそれぐらい信頼し合って、互いを思い合っているのだ。

「いいですか、姉さん。絶対にここを動かないでくださいね。飲み終わってもですよ」
「ええ、もちろん」
「ダンスの誘いは……姉さんに任せたら、何を引っかけてくるのかわからないので、しばらくは〝疲れてしまったので、また後ほど〟で断ってください」
「ええ、もちろん」

私が一体なにを引っかけるというのか……ほんの少しムッとしたものの、言い合いしている暇はないだろうと、口にしなかった。

「本当に、お願いしますよ」
「ええ、もちろん」

最後まで疑う視線を遠慮なく向けながら、オリヴァーはひしめく人の間をすり抜けていった。

(もう、オリヴァーったら。あの子を育てたのは私のようなものなのよ。いつの間にか、生意気になっちゃって)
言いたい不満は山ほどある。けれど、彼を弟として愛しく思う気持ちもそれ以上にある。

(結婚、結婚って、私のことを案じてくれているのはわかるけど……私が家を出てしまうのは、不安だわ)
母はオリヴァーの下の、双子の妹達が生まれてしばらくして亡くなってしまった。ジェシカには、母親代わりとして頑張ってきた自負がある。
それだけに、自分が結婚してあの地を離れてしまうことに、どうにも不安が拭えなかった。