貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

未だ公の場で父以外の人と踊ったことのないジェシカは、少々緊張していた……ことはない。
確かに、身内以外の誰かと踊った経験は皆無だ。けれど、妙に度胸だけはあるジェシカは、クラークと踊ることぐらい、それほど難しいことではなかった。
それよりも……。

(クラーク・ナフィールド、クラーク・ナホー……いえ、ナフィールド、だったわよね?)
相手の名前を覚えるのに必死だった。

(後でオリヴァーに報告するように言われてるんだもの。忘れたなんて言ったら、なんて言われることやら……)

クラークについては、オリヴァーもその場に居合わせたのだから、必死に覚えて報告する必要はない。などということは、ジェシカの頭にない。ただひたすら、呪文のように繰り返すのみ。

踊り終わってすぐオリヴァーに報告したところ、〝僕も聞いていましたから〟の一言で切って捨てられ、ガクリと肩を落としていた。

ジェシカだって、決して頭の方が……というわけではない。
普段お目にかかることのない、素晴らしい料理が山ほどあるとわかっているのに、あれは飾りだから食べてはいけないと我慢を強いられ、なおかつ、興味もないのに男性と踊るように指令を出され、若干いっぱいいっぱいになっているのだ。



「オ、オリヴァー、さすがに疲れたんだけど……」

クラークに誘われたのをきっかけに、踊り終わるたびに申し込みを受けていたジェシカ。
中には侯爵家の人間もいたほどで、やはり大人しくしていれば姉はモテるのだと、オリヴァーは満足していた。

「お疲れ様、姉さん」

まるで〝よくできましたね〟とでもいうような弟オリヴァーに、どっちが年上なのかと、ジェシカ自身が首をひねりそうになってしまう。

「これで〝残念美人〟なんて汚名は、少しでも返上できたでしょう」
「そ、そう」

もはや疲れて言い返す気はなくなった。