貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

「着きましたよ」

本来、未成年は夜会に参加できないことになっている。
しかし、口の達者なオリヴァーのこと。父を病気に仕立てて、あれやこれやうまいことごまかして、今夜ジェシカのエスコート役を務めている。

「すごい」
「姉さん、料理の方を見ないでください」

会場に入った途端、やはりジェシカの心を奪ったのは、奥の方にちらりと見えた素晴らしい料理だった。

「わかってるわ」

(わかっているけれど見ちゃうのよ!!)
心の内でこぼしつつ、泣く泣く視線をずらした。
(後で一つぐらい、絶対に食べてやるんだから。一つだけ、一つだけ。ほんの少し、オリヴァーの気がそれた時に)

「姉さん?」

よかならぬことを考えていませんよね? とオリヴァーの視線が問いかけてくる。いや。もはや問い詰めて……追い詰めてくるようだ。

「わ、わかっているから」

(料理のことは、いったん頭から追い出すのよ、ジェシカ)
再びテーブルの方に向けられていた視線を、しぶしぶ人々に向けた。

色とりどりの美しいドレス。そこかしこでキラッキラッと光を反射する、女性たちの身に着けた宝石。
(なんて奇麗なの)
貧乏貴族のジェシカでは、手にしたことのないような高価なものばかりだ。ジェシカだって、年頃の娘だ。そういうものに憧れる気持ちはもちろんある。
けれど……。

(まあ、スイーツの華麗さには適わないわね)
花より団子。身を飾るだけのものより、腹を満たすものへの羨望の方が大きかった。

「姉さん、いいですか? 今夜はいろんな方と踊るんですよ。僕は近くで見ていますから。とにかく、自分を売り込むんです。あっ、でも、余計なことは話さないでくださいよ。相手に合わせて相槌を打つ程度で。わかってますね?」

「わかってるわよ。ダンスに応じればいいんでしょ?」

(でも、頑張ったらご褒美ぐらい欲しいわ。チョコケーキとか、ゼリーとか……)

「少しでも良い縁談相手を見つけること。いいですね?」