貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情

そんなこともあって、今夜の付き添いは少々ぼんやりとした父ではなく、弟のオリヴァーが務めることになったのだ。彼自らの申し出で。

「だいたい、父上が目をはなすから……いや。姉さんの食い意地が……」
「失礼なことを言わないでちょうだい」
「事実です。夜会で用意される料理は、半分は飾りのようなもの。それをガツガツと……周りが見えなくなるぐらいガッツくなんて」
「飾りですって!?」

勢いあまって前のめりになる姉に、オリヴァーが背をそらした。

「確かに、見た目も素晴らしかったわ。それに、あまり食べられている様子はなかった。けど、飾りって……」
「姉さん!! 大丈夫です。残りは使用人達が……きっと」

小さく加えられた〝きっと〟は彼女には聞こえず、ちゃんと食べる人がいるのならと、ジェシカは胸をなでおろした。

「とにかく、今夜は料理は諦めてください」
「そんな……」
「そんなも何もありません!! 姉さんはあの一件から〝残念美人〟なんて、ひそかに言われてるんですよ」

未成年のオリヴァーが、なぜ貴族の間の噂を知っているのかと問いたいところだけれど、この弟ならなんでもアリな気がして、ジェシカは聞くのをやめた。

「他にも、〝花より団子〟〝バキューム令嬢〟なんて……あぁ。本当に恥ずかしい。どんだけ食べたんだか……」
「なにそれ。ネーミングセンスゼロじゃない」
「そういうことじゃありません!!」

オリヴァーの大声に、思わず耳を塞いだ。ここまできてもまだ、弟は大げさすぎる程度にしかジェシカは捉えていない。

「いいですか!!  姉さんは、余計なことをしない。大人しくしていればモテるはずですから!!」
「……わかったわよ」

ジェシカにとって、自分がモテようが全く興味のないこと。口では納得したように答えつつ、やはりあの素晴らしい料理のことを思ってしまう。

ただ、ジェシカが豪華な料理に心を奪われるのも、仕方のないことだった。なぜなら、ミッドロージアン家は貧乏だったから。