『深雪ちゃん、引き返すなら傷が浅い内にね』



頭の中で。


ぐわんぐわんと、薫おじさんの言葉が回る。













それから数日経って。

「黒猫」で仕事中。

平日の夕方。


「なーんか、元気無くない?深雪ちゃん」
薫おじさんが、心配そうな顔をしている。


「え、元気ですよー!」
あはははっと笑ってみせる。


「おつかい頼もうと思ってたんだけど、幸絵さんに行ってもらおうか?」

「大丈夫です!行ってきます!」







店の外に出ると、むんっと暑い空気が私を包む。


道行く女の子達が小さな扇風機の風を顔に当てて歩いている。


私もあれ、買おうかな。
涼しそうだし。


そう思いつつ、ひたすら歩いていると。


「お姉さん、ちょっといいですか?」
肩をポンポンされた。


振り向くとおじいさんとおばあさんが、困った顔をして立っていた。


「道を教えてほしいんですが、この近くに市民会館がありませんか?」

「……あっ、はい。あります。この先の角を曲がって、右に真っ直ぐ歩いて行くと……」
私は市民会館への道順を説明した。