苺にはもうなれない


そこにはオシャレなトレーニングウェア姿のキャップを被った男性が立っていた。




「……武岡さん!?」




武岡さんはベンチに近づいてきて、
「小森さん、おひとりですか?」
と心配そうな顔をしている。


「あっ、はい。あの、近所に住んでいるんです」

慌ててしまって、聞かれてもいないことを話してしまう。


武岡さん、ランニングしてたのかな。

首元が少しだけ汗で光っている。


「……隣に座ってもいいですか?」
武岡さんが遠慮がちに聞いてきた。


「どうぞ!」


武岡さんが私の隣に腰掛けた。

ふんわりと良い香りがする。


柔軟剤の香りかな?


「何か、あったんですか?」

「えっ、いえいえ、大丈夫です」
咄嗟に嘘をついてしまう。

笑顔を見せて、元気ですよとアピールしながら。



そんな私を黙って、武岡さんは見つめていた。



キレイな瞳。

黒い瞳が、キラキラ輝いているみたい。




まっすぐな瞳で見つめられて、私はどんどん恥ずかしさが込み上げてきた。