苺にはもうなれない

私はそれを聞かなかったふりをして、
「じゃあね、体には気をつけてね」
と言って、電話を切った。




耳にあてたスマートフォンを離すと、涙目になっている自分に気づく。



悔しかった。



お父さんに今更謝られても、全然スッキリしない。





「私達を裏切ったくせに」



私達。
私とお母さん。



お父さんはある女性と、不倫をしていた。





そのことに私は全く気づいていなかった。

家族3人、仲良く暮らしていると思っていた。


「仕事だ」と言って帰ってこない日も、たいして不思議に思わなかった。





私が高校生の時。

不倫相手の女性が私達の家にやって来たことで、私はお父さんの裏切りを知った。


あの日。

女性は「お父さんの知り合いなんです」と、私に自己紹介した。

脅されたりとか、怖いことはなかったけれど。


鈍感な私でも気づいた。

お父さんが女性を見る目。

女性のお父さんに対する態度。




ただの知り合いだとは思えなかった。