苺にはもうなれない


『深雪は仕事どうだ?忙しいのか?』

「うん、まぁ」

『結婚は?……深雪は今、何歳になったんだっけ?』

「私のことはいいよ。聖子ちゃんにおめでとうって伝えてね」

私は静かに、線を引いた。


お父さんと、私の間に。






『伝えるよ。喜ぶよ、きっと』

「うん」

それから少し沈黙が流れた。


もう電話を切りたい気持ちになってきた頃、
『深雪』
と、お父さんが呟いた。


『結婚式には、その……、なんだ。忙しいなら無理しなくても、いいんだからな』



……なるほどね。

そのための電話だったんだ?



「大丈夫だよ。行かないよー」

私は出来るだけ明るい声で言った。



「仕事も忙しいし、きっと行けないと思う。聖子ちゃんには謝っておいてね」



『……ごめんな』



「なーんで、お父さんが謝ってるのよ。……もう、切るね。これから用事もあるし」
……なんて、嘘だけど。

小さな声でお父さんが、
『悪かった』
と呟いた。