苺にはもうなれない



商店街を抜けて。


小さな橋を渡って。


なだらかな坂道をのぼれば、マンションに到着。





玄関前に立ち、鍵を探す。


どこからかカレーの良い匂いがしている。


「お腹空いてきたなぁ」




その時。

鞄の中でスマートフォンが振動した。



画面を覗くと、「お父さん」の文字。



電話に出るか出ないか、少し迷ってしまったけれど、私は応答ボタンをタップした。




「……お父さん?」

『あぁ。今、大丈夫か?仕事中か?』

「大丈夫、家に帰ってきたところ」

私は話しながら鞄の中にある鍵を探し当てて、玄関のドアを開けた。




部屋に入り、電気をつける。

『今度、聖子(せいこ)が結婚するんだ』

「あ、おめでとうございます」

聖子とは、私の義理の妹になる。


お父さんと再婚相手との、ひとり娘。


『それで深雪にも知らせておこうと思って。ほら、一応、姉妹なんだし』

『一応』……ね。