気づくと薫おじさんが、私の顔の前で手をひらひらさせていた。
「お客様が来ていないからって、ボーッとしないの!」
「ご、ごめんなさい」
「素直でよろしい」
薫おじさんは大きく頷き、私に雑巾を渡した。
ん?
「今の間に店の外側から窓拭きしてきて」
「……はい」
「素直でよろしい!」
秋が深まってきて、もう北風を感じる。
薄手のジャンパーを羽織って、私は外に出た。
「今日はお客様、来ないなぁ」
ひとり呟きながら、窓を拭いていく。
田谷さんは今日、お孫さんの運動会を見に行くって言っていたっけ。
武岡さんは……、最近あまりお店に顔を出してくれない。
「忙しいのかなぁ?」
寂しい気持ちを窓の汚れに見立てて、キレイに拭いていく。
「えー、マジで!?何それ」
突然の女子高生の声に驚いた。