「……じゃあ、オレは帰るわ」
田谷さんが席を立つと、「キャップさん」は頭を下げた。
それを見た田谷さんはニッコリ笑って、
「また話しましょうね」
と、レジに向かった。
少し前の気まずい空気なんか全然感じなくなっていて、私は心から安心する。
「キャップさん」は私と目が合うと、
「……ありがとうございました」
と呟いた。
何のお礼?
よく分からない顔をしていたと思う。
でも「キャップさん」はそれ以上は何も言わず、読書の世界に行ってしまった。
小一時間ほどして。
「キャップさん」が席を立った。
「お会計をお願いします」
手があいていたので、私がレジ打ちにまわる。
お会計が済んで。
「キャップさん」が、
「あの……」
と、私に小さな声で話しかけてきた。
「はい」
私も小声で返事する。