私は「キャップさん」のそばまで行って、席に案内した。


平日の午後。


店内にいるお客様は、ちらほら。


「カウンター席でもよろしいですか?」
そう尋ねると、
「はい。大丈夫です」
と、「キャップさん」はゆっくり答えた。


手には、黒い革のブックカバーがされた文庫本。


今日は青色のグラデーションが目立つTシャツに、黒い細身のパンツ姿。


私は田谷さんの席から2つ離れた席に「キャップさん」をお連れした。




「あっ、アイスコーヒーをお願いします」

席に座る前に、「キャップさん」は注文した。



「かしこまりました。アイスコーヒー、おひとつ」
注文表に書きこむ。



すると田谷さんが、
「……お兄さん、オレとどこかで会ってない?」
と、「キャップさん」に聞いた。


「キャップさん」は田谷さんに笑顔を返して、何も言わない。