朝から蒸し暑い日だった。
平日の午前中。
「まだまだ暑いねー、もう夏も終わるのに」
薫おじさんが、氷の補充をしながら話しかけてきた。
「深雪ちゃん、あとでおつかい頼むけれど、この暑さだから気をつけて行ってよ?」
「おつかいですね、はい。今から行きます?」
今日はお客様も少ない。
私はさっきから少し暇だな、と感じていた。
その時。
お店の扉がカランコロンと、音を立てて開いた。
「いらっしゃいませー」
薫おじさんがカウンターの中から、笑顔で迎える。
私も接客に向かう。
「おひとり様ですか?」
ひとりで入り口に立っているお客様に近寄り、頭の中ではどの席に案内しようかと考えていた。
「あ、はい」
お客様は短く返事をして、店内を少し見回した。
スラッとした男性のお客様だ。
初めてのご来店かな。
お客様はなんとなくホッとしたような素振りを見せて、被っていた帽子をとった。
……野球帽じゃなくて、なんて言うっけ?この帽子……。
そんなどうでもいいことを、一瞬だけ考えてしまう。



