虹色のキャンバスに白い虹を描こう



清が口を開いたのと、僕がシャッターを切ったのは同時だった。一段と風の勢いが増し、場の音を攫う。


「なに?」


やや声を張って、聞き取れなかった彼女の言葉を問いただす。

返事はなかった。
真っ直ぐ前だけを見て漕ぐのをやめた清が、ブランコに揺られている。数秒そうした後、彼女はこちらに顔を向け、「何でもないです」と述べた。

若い女の人たちが僕らの後ろで待っていることに気が付いたので、ブランコを降りて近江さんにカメラを返却する。


「いい写真は撮れたかい?」


持ち主に問いかけられ、正直に「分からないです」と応じた。


「でも、撮りたいものは撮りました」


近江さんが破顔する。


「それで十分だよ」


結局、白い虹は現れなかった。
僕らは近江さんの案内で林道を歩きながら、知らない植物や虫の名前をいくつも覚えて、帰りのバスに乗り込んだ。

行きと同様、流れていく緑色をぼんやりと眺めていると、左肩に突然重さを感じて心臓が跳ねる。首だけ動かして確認すれば、案の定、隣の清がすやすやと眠っていた。


「たくさん歩いて疲れたんだろうね。観光スポットとはいえ、山だから」