逡巡している僕の気配を感じたのか、白先輩は唐突に告げた。


「誰かと比べて特別上手にできることとかないし、いつもみんなに合わせてばっかりだし……でも、犬飼くんが褒めてくれた時、少しだけ自信持てたんだ。私はもしかしたら、絵が得意なのかもしれないなって」

「白先輩は、もっと自信持つべきです」


思わず食い気味に口を挟んだ僕に、「ありがとう」と彼女が頬を緩める。


「そうやって、誰かのために好きって伝えられるんだもん。犬飼くんは、自分のこと、もっと好きになれるよ。絵だって、何だって」


あの日、彼女にしてしまったことは間違っていた。それでも、彼女に伝えた「好き」はきっと、何の躊躇いもなく濁りもなく、本物だった。

自分の中にも綺麗なままの感情はあって、一つずつ、丁寧に拾い上げたのは――


『私は、航先輩の絵を見たいです。どうしても、もう一度見たいんです』