それからしばらく、影君と秘密の手紙の交換だけを続ける穏やかな日々を過ごしていたけれど、季節が夏に大きく傾いて、春の後始末が始まった頃。


一日中、静かな雨が降り続く梅雨がようやく明けたと思ったら、そこで、ついに悲しい事件が起きた。



 忘れていたんだ。


影君と会ったこと、手紙のこと、それからなるべく小さな傷を遠ざけること、それらで頭がいっぱいになっていて。

私はやっぱり自分のことばっかりで。



 何もなく終わるはずだった曇り空の水曜日のこと。久美ちゃんは、朝から、ずっと浮かない顔をしていた。


その理由も、私は最初、なぜなのか、ちっとも分からなかった。

異変に気が付いたのは、向き合うようにしてお昼ご飯を食べていた時だった。



 いつものように久美ちゃんが楽しそうに話さないから、何かしてしまったのかと思い、不安になって、「……ごめんね」と謝ったら、久美ちゃんは首を横に振って、「なんで、謝るの」と、苦しい声で言った。



「……私が、何かしてしまったのかなと思った、から。……謝っちゃって、ごめん」

「全然違う。……文子ちゃん、」



 久美ちゃんが箸をおいて、じっと私を見た。


いつもとは全然違う顔だ。
傷ついたような表情を浮かべている。