「……っ……」
「ほら、若菜、ご挨拶っ」
父親に肩をポンと押され、しばらく絶句していたが、こわばった表情で口を開く。
「は、初めまして……美織若菜です」
「どうも。今日はお会いできてとても嬉しいです」
「さ、さぁ、食事を始めようじゃないか。女将さん、よろしく」
開き戸の奥で合図を待っていた女将は、変わらぬ笑顔でぺこりと会釈をして、机に料理を並べ始めた。
「で、どういうことなの、パパ!」
私はぶっきらぼうに、父に疑問をぶつけた。少しずつ上向いていた機嫌は、この数分間で急降下してしまったらしい。
「えーとだな、話の途中だったが……パパが若菜の写真を見せたら、和樹くんがどうしても一度会わせてくれ、と頼み込んできてな。いわゆるあれだ、一目ぼれというやつらしい。それで、こんなにいい男と若菜が一緒になってくれたら、これ以上嬉しいことはないと思い、この場を……」
「この人のどこを見たら『いい男』だなんて言えるのよ!」
「若菜! いいかげんにしないか!」
焦りながら私をたしなめる父親を見ながら、鮎川さんはふふふ、と笑った。



