「どうも、美織さん。お待たせしてしまい申し訳ありません」

「やぁ、よく来てくれたね」

「な、な、な……っ」


 開き戸の前で立ち止まって礼をする男を見て、私は思わず目を見開きながら声をあげた。


「なによこのダサいおじさんは~!」

「こら若菜! 初対面の人に向かってなんてことを言うんだ!」

「だって! だって! パパの話聞いてたら、もう少しまともな人だと思うじゃない!」

「やめなさい! ……和樹くん、うちの娘がすまない。失礼なことを……」

「いえいえ、外見に無頓着なのは事実ですから。この年になってまで、年相応の見た目ができないというのは、僕の落ち度ですし」


 男はポリポリと頭をかきながら、柔らかな笑みを浮かべて私の目を見た。


「若菜、紹介するよ。彼が私の親友である、鮎川 和樹(あゆかわ かずき)くんだ。」

「若菜さん、初めまして。鮎川と申します」



 そう言って頭を下げた鮎川は、ワンサイズ大きいよれよれのスーツを身にまとい、アイロンのかけられていないしわくちゃのシャツを着ている。

 髪は伸び放題といった感じのぼさぼさ頭で、前髪は分厚い眼鏡を半分以上隠している。