「ふーん。立派な人じゃん。それで? なんでそんなにすごい人が四十歳にもなってまだ独身なの? もしかして、性格に難あり的な?」
「いやいや、とても穏やかで優しい男だし、誠実でウソは絶対に付かない。さっき言った通りとても優秀だけど、それを鼻にかけることもない。正直で真面目な男だよ」
「だからさ、私が聞いてるのは! なんでそんないい人が独り身なのよ! しかも資産家なんでしょ?そこら辺の、主に港区あたりに出没する種類の女が放っておくわけないじゃん!」
「それがな……彼自身がこれまで、あまり恋愛に興味がなかったんだ。それに、言い寄ってくる女性はいたみたいだが、結局は彼の資産目当てばかりでな……」
「四十にして恋愛に目覚めたっていうの? ……っていうかそもそも、なんで私?」
「あー……実は、この前久しぶりに彼と会った時にな、パパが若菜の写真を見せたんだよ。そしたら――」
「失礼いたします」
扉の外から声が聞こえ、開き戸が少し開いた。
そして、女将の上品でよく通る声が聞こえてきた。
「お連れ様がお見えになりました。よろしいでしょうか?」
「あ、ああ……どうぞ。ほら若菜、きちんと座りなさい」
父親に促され私は、服の乱れを気にする素振りをみせながら、大窓から離れ席につく。
女将が個室の中の様子を感じとったのか、父親の返答から数拍待って、ゆっくりと開き戸が開けられた。



