「どうぞ、こちらのお部屋でございます。お連れ様はまだお見えになっていませんのでお待ちくださいね」
庭園を一望できる廊下を先導していた女将が立ち止まり、優しい笑顔で個室の開き戸を開けた。キビキビとしていながらも落ち着きのある美しい所作が、気分をまたひとつ高める。
「金木犀の間、か。わぁ素敵!」
私は入室するなり、個室の奥に広がる景色に目を奪われた。先ほどの色鮮やかな庭園とは打って変わって、白と灰色だけで描かれた枯山水が、まるで絵画のように大きな窓に映っている。
「こら! 若菜、はしたないよ。もう少し落ち着きなさい!」
父は女将の手前、恥ずかしそうに私をたしなめた。
「ふふっ。美織様、元気で素敵なお嬢様じゃありませんか。どうぞごゆっくり」
女将さんはそういって礼をすると、個室を後にした。
「ねえパパ、今日来るパパの親友って、どんな人なの?」
「ああ、詳しく説明していなかったな。彼とは、私が今の会社に勤めてしばらくした頃に出会ってね。彼は当時まだ学生だった。年齢はパパの六歳下だから、ちょうど……四十歳か」
「げ、やっぱりおじさんじゃん」
私は思わず眉間にしわを寄せ、両肩をすくめる。