「なぁ……若菜、そろそろ機嫌を直してくれ」


 首都高速を走る白いセダンの運転席では、白髪まじりの男性が、弱弱しい声を出した。スーツ姿のその男は、バックミラーで後部座席に座る私の表情をチラリと確認している。その人は私の父だ。


「あのね、私はパパがどうしてもって言うから仕方なく来たの! でも! お見合いの相手が、パパと大して年齢が変わらないおじさんだなんて初耳よ!」


 ――私、美織 若菜(みおり わかな)はさっき聞いたばかりの事実にイラついていた。パパが食事に行こうって言ったから来たのに。

 ため息を吐きながら、流れていく車窓の景色を眺める。


「まぁまぁ、そう言わないでくれよ。年齢を黙っていたのはパパが悪かったよ。だけど、それを言ったら若菜が来てくれないと思ったんだ……」

「当たり前でしょ! どこの娘が父親と同年代の男と好き好んでお見合いなんてしたがるのよ! 相手がパパの親友ってんじゃなかったら、とっくに帰ってるわよ」


 紹介したい人がいる、なんて……私はてっきり、再婚でもするのかと思ったのに。


「若菜も、一度会ったら彼のことを気に入ってくれると思うんだ。とても誠実で、信用できる男なんだよ。それに、彼は国内にいくつものビルを所有している資産家だ。一生食いっぱぐれることはないぞ!」

「どうでもいいわよそんなの! 私は普通に好きな人と恋愛して、結婚して、普通の家庭を築きたいの。お金のために好きでもないおじさんと結婚するなんて、そんな玉の輿シュミはないわ!」

「う~ん……とにかく、パパの顔を立てると思って、一度会ってくれ。頼むよ。」

「ふん! ご飯食べたらすぐ帰るからね」


 白いセダンはウインカーを出して速度を落とし、出口に続く下り坂へ向かった。