それでも、楽しさを知ってしまった今、トオコたちの話し声が胸に突き刺さってくる。


その声から逃げるように文庫本に視線を落としたとき、「なぁ」と、後からぶっきらぼうな声が聞こえてきた。


どうせ自分以外の誰かに声をかけたんだろう。


このクラスに仲のいい友人なんていないんだから。


そう思ったが、今度は肩を叩かれた。


間違いない、今のは私に声をかけてきたんだ。


そう思うと瞬間的に胸が踊って勢いよく振り向いた。


そこに立っていたのはユウキで、目が合った瞬間心臓が大きく跳ねた。


思わず視線をそらしてうつむいてしまう。


「これ、落ちてたから」


ユウキが机に置いたのは消しゴムだった。


いつの間に落としたのか、気が付かなかった。


「ありがとう」


感謝の言葉も消え入ってしまいそうだ。


「あのさ」


続けて言われてセイコはゆるゆると顔をあげた。


今はメークもやめてしまって、顔を見られるのは少し恥ずかしかった。