夢の中のミハルはトリマーだった。


今日も大好きな犬の毛を刈っていく。


「店長、お客様からお電話です」


「じゃあ変わってくれる?」


従業員に仕事を代わってもらって電話を手にした。


「お電話変わりました。オーナーの大野でございます」


電話での丁寧な受け答えも慣れたものだ。


次の予約だと思って手元のメモ用紙を引き寄せたそのとき、ミハルの耳につんざくような女性の声が聞こえてきた。


『ちょっと! あんたのところはどういう毛の狩り方してんのよ!!』


突然聞こえてきた金切り声に受話器を耳から遠ざける。


「どうかいたしましたか?」


『うちのトイプードルのラブちゃんを丸裸にしたでしょう!』


トイプードルのラブちゃん?


あぁ、昨日私が担当した犬だ。


毛を狩る前に飼い主さんとは事前に話をして、足やしっぽに毛を残す必要はないと言われたはずだ。


「ですがお客様、それはお客様のご要望で……」


『なによ、こっちが悪いって言うの!? もう良いわ、あなたがやったことはちゃんと口コミ情報に書かせてもらいますからね!』


女性は一方的に電話を切ってしまった。


その後ミハルが何度声をかけても返事はなく、仕方なく受話器を置いたのだった。