主人公が過去の自分に殺される話が出来たら面白そう。

それだけだった。

「僕は過去の自分に殺される」

そんな物語を書いた。

主人公は大切な彼女を守るために過去の自分に殺される。
彼女を守るために書き残したメッセージを届けるために。

私は彼を殺した。
物語の中で。

私は嘘をついた。
これは幸せな物語だと。

彼は私に言う。
貼り付けた笑顔で。
「僕を生んでくれてありがとう。彼女を救うことが出来た。僕は幸せだった。」

彼女は私に言う。
憎しみの涙を浮かべて。
「なんで彼を殺したの?どうして私達を幸せにしてくれなかったの?彼を殺したのは彼じゃない。あなただ」

彼は何度も「僕は幸せだ」と言った。
私が言わせた。
幸せな物語にしたかったから。

彼は本当に幸せだったのだろうか。

本当は分かっていた。
これは幸せな物語なんかじゃない。
これはただの悲しい物語だ。

私は幸せな物語を作りたかった。

だから私は決意した。

もう一度、物語を紡ぐことを。

後付けだと言われてもいい。
ありきたりな結末だと言われてもいい。

彼らを本当に幸せに出来るのは私だけなのだから。

今度こそ、幸せな物語を作ろう。

読者のための物語じゃない。
彼らのための物語だ。

彼らを幸せにする物語を作ろう。