俺は、青い戦闘服に身を包み、生と死の間にいる人間の体を受け入れる。
アルコールの臭いが充満した、白い床と壁、機械、そして数えきれない医療用備品に囲まれている部屋で。
食事をする時間などは皆無。
日々、次から次へと処置が必要な患者が押し寄せてくる。

「お願いします!!!」

あの日も、ストレッチャーに乗せられた、血だらけの患者複数やってきた。
その患者の中に、6歳くらいの男児もいる。
身体中、血に染まっている。
意識は、ない。
心肺も停止。
俺は心臓マッサージを行う。
でも、機械は無常にも鼓動が戻らないことを伝えてくる。
すでに、顎部分に硬直が出ている。

(これはもう、ダメだ……)

蘇生を諦める……という選択をしなくてはならないタイミングだ。
その選択は、客観的には正しい。
その場にいた、医学に精通している者なら誰でも同じ判断をする。
だけど、患者の家族にとって、その選択は間違いでしかない。

かつての俺は、大病院の救命救急センターの中心として働いていた。
冷静に、そして瞬時に判断し、その場での最善をし尽くし続けた。
その……つもりだった。
だけどある日、俺は急に体が動かなくなった。

「どうして助けてくれなかったんですか!」
「先生のせいでこの子が死んだんです!」

そんな叫びが、急に頭から離れなくなったのだ。

俺の選択は、生と死に直結する。
正しかろうが、間違っていようが、重くのしかかる選択の重み。
俺はいつしか、その重みに耐えきれなくなり、選択をすることから逃げた。

あの日のことは、何度も繰り返し夢に見る。
毎日、欠かすことなく。
もう何度、子供たちの死を見させられただろう。
何度、親たちに責められただろう。

ピピピピ。

どこからか目覚めのアラームが聞こえてきて、悪夢がまた終わる。
茶色い、少し汚れた天井に、生活感溢れる寝室に引き戻される。
そして俺は、毎日アラームを止めながらスマホを確認する。
今生きている時間軸が、夢の時間軸よりもだいぶ先にいることを確認する。
それから、汗だくになった体を無理やり叩き起こすためにシャワーへ向かう。

これが、今の俺の繰り返される日常。
そして今日も、明日も明後日も、この日常が繰り返されるはずだと、どこか諦めていた。
そんな日常を救ってくれる存在と、今日この後出会うとも知らずに。