40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで

(綺麗……)

大きくそびえ立つ鳥居をくぐり抜けると、雑誌で見るよりも、ずっと現実的で賑やかな空間が広がっていた。
ここには、色鮮やかなの江戸風鈴が2000個飾られている風鈴回廊が夏の間設置されていて、涼やかな音を奏でている。
そして、その回廊を見ようと、たくさんの人が行列を作っていた。

「並びますか?」

と聞いてくれる氷室さんに対し、私は首を横に振った。

「何故?」
「きっと、時間がかかってしまうでしょうから、また今度……機会があればでいいです」

私はいくつかある理由の内、それだけを言った。

「しかし……」
「それより氷室さん、お参りしませんか?」

私は、氷室さんが何かを言いかけたのを遮るかのように、風鈴の行列よりずっと人が少ない拝殿に誘った。

ここは、縁結びで有名な神社。
いつか出会うであろう、恋人との縁を真剣に願う人達や、今側にいる恋人との縁を深めたいと考える人達の想いが集まる場所。
そんな場所に、自分なんかが氷室さんのような人と来ていることが、やっぱり申し訳ないと思ってしまう。

せめて、氷室さんにいい人が現れますように、と願おう。
私なんかより、ずっと可愛くて素敵な女性が現れますように、と神様に拝んでみた。

(……って、願わなくても大丈夫か……氷室さんなら……)

そんなことを、100円のお賽銭だけでじっくり考えて、苦笑した。

(あれ?氷室さん……?)

周囲を見渡すと、横にいたはずの氷室さんは、いつの間にか賽銭箱の前から離れて、人混みの中にいた。

「森山さん」

氷室さんが手招きをしてくるので、近づいてみた。
そこにあったのは、小さな釣竿と、たくさんの鯛の形の置物っぽいもの。
鯛みくじ、と書いてあった。