「……すごいね」
「……っ!」
わたしが最近集めている、幸せな言葉。一段と胸が熱くなる。
自分の外見も中身も、まだまだ嫌いなままだ。
でも雨夜くんといるときだけは、ほんの少し、自分を好きになれるかもって。
もっと好きになっていけるかもって……そう、思ったときだった。
「は⁉︎ 起きたの今⁉︎ なんでよ!」
「……っ!」
建物の出入り口で響いた、大きな声。
自然とそちらの方を見て、瞬間、血の気が引いた。
頭の高い位置でまとめられた髪。
スマホを耳に当てて怒っているその女の子の髪型が……ポニーテールだったから。
「アンタが図書館で勉強しよって提案してきたんでしょーが!なんで約束の時間に起床⁉︎バカじゃないの!?」
「……っ」
顔も違う。声も違う。
違う、違う。大丈夫。美和じゃない。
それでも、ポニーテールの長さはちょうど同じくらいで。
その映像が、わたしが必死に奥底に沈めているおそろしい記憶たちを、浮き上がらせる。
『キッモ! こっち見んな』
暴言を吐きつけられたときの記憶。
『嘘つかないでよ! 美和に聞いたんだから』
そして……あの日の、いまわしい記憶。
「ーーてるの? ……永田さん?」
「え……あ……」
頭がまた正常に働かなくなって、雨夜くんの言葉が聞こえてきていなかった。


