「永田さん、読書好きだもんね。……あ、そうそう。今日俺、【きみに好きと言わない】借りようと思ってここに来たんだ」
「……!」
「でも貸し出し中だったから、さっき予約だけ済ませてきた」
そう言って、にこりと笑う雨夜くん。
わたしが交換日記上でおすすめして、読んでみるという返事をもらった本だ。
社交辞令じゃなくて、本当に借りようとしてくれていた。そんな律儀な一面が、わたしの心をあたためる。
「そ、そうだったんだ……」
「もっと早く借りたかったんだけど、まだここの改修工事終わってなかったから」
「あ……ここ、ほんと綺麗だね……!あの、見たとき、びっくりして……近所の図書館とは、全然……っ」
下手くそながら言葉を続けて、チラッと横目で雨夜くんのほうを見る。
そしてハッとくちびるを結んだ。雨夜くんが、すごくやわらかいほほえみでわたしを見ていたから。
「永田さん、いつもの調子がでてきた」
「あ……」
「もっと聞かせて」
「……っ!」
かあ、とほおが染まるのを感じて、あわてて帽子のつばを引き下げる。
そう。今日は家を出たときからずっと、黒い野球帽を頭にのせてきていたんだ。
野球帽は、休日の外出時には欠かせないお守りだ。
亡くなったお父さんが使っていたもの。髪の毛だけじゃ顔を隠すのに心もとないから、この帽子には本当に助けられている。


