「ほんとに、びっくりしたね」
静かにしなければならない空間から、一歩抜け出た場所。
自動ドアをくぐってロビーに出たところで、雨夜くんがこちらを振り返って言った。
「俺の家、この近くなんだ。もしかして永田さんも?」
「あ……」
今の状況にまだ追いつけなくて、言葉がうまく出てこない。
でも雨夜くんは、起動が遅いわたしにあきれたりしなくて。
「そこ、座ろう」と長椅子を指差して、ほほえんでくれた。
ふっくらした、合皮張りの長椅子。その左端に、ちょこんと腰掛ける。
わたしの緊張を取り除くためだろう、雨夜くんは距離をとって右端に座ってくれて。
そこでやっと、フリーズ状態の頭が元通りになってきた。
「あ、の……」
「うん」
「近くは、なくて……」
もごもごした声で、さっきの問いかけに対して答え出す。
「電車、でね。三十分くらい……」
「へえ、そうなんだ。図書館がリニューアルされて綺麗になったから、来てみたの?」
「あ、うん……!」
その通りだと、コクコクうなずく。
雨夜くんはすごいな。わたしのことを、なんでもわかっているみたいだ。


