思い出す。雨夜くんと約束して、はじめてここに来た日のこと。
あのときわたしは、緊張のあまりカタカタふるえていた。
話すなんて無理、逃げ帰りたい、なんてマイナスなことを考えて……そしたらやってきた雨夜くんが、わたしの負担を考えて、顔の前にノートを構えてくれたんだ。
『こうして視線が合わなかったら……永田さん、しんどくないかなって』
そういった思いやりのひとつひとつに、どんなに救われたか。
『……すごいね』
わたしの存在を認めてくれるその言葉が、どれほど嬉しかったか。今思い出しても、涙がにじみそうになる。
それから会うことを重ねるたびに、雨夜くんはわたしの中で、どんどん大きな存在になっていった。
『永田さんもすごいよ。コミュニケーション取ることが苦手なのに……その苦手なことに、毎日取り組んで。それって、だれにでもできることじゃない』
『本当に弱い人間は逃げるから、そもそも自分を情けないなんて思う機会がない。永田さんは十分……頑張ってるよ』
『永田さんは……可愛いよ』
雨夜くんと一緒にいると、嬉しくて楽しくてときめいて。切なくて苦しくて、幸せで。
雨夜くんはいったい、わたしにいくつ感情を教えてくれて。
わたしの心にどれほど、彩りをくわえてくれたのかな。


