ふわふわと、夢の中を漂っているような声だ。 瞳だけは記憶の中より若くて、そこにのぞく幼さが、少女みたいだと思った。 「あ……」 かすれた声が漏れる。 一度くちびるを閉じて気持ちを整えてから、俺は、自分の名を名乗った。 「……雨夜涼です」 「あまや……さん?」 「はい」 これ以上にない、緊張の一瞬だった。 ーー母親は、なにも覚えていない。 そのことは野坂さんから聞く前に、祖母から聞いて知っている。