息を詰めた、その瞬間。
薄れて廃れていた幼いころの映像が、しゅるりと引き出された絹のように、頭の中に広がった。
鮮やかによみがえる、いくつもの母親の姿。
料理をする母。俺の手を引く母。ぼうっと、夜の闇を見つめる母。
『……涼』
若き日の母親が、俺の名を呼ぶ。ほほえみながら、俺の頭を撫でる。
記憶の中の母親よりも、今目の前にしている女性は、ずっと年を取っている。十一年も経っているのだから当然だ。
けれど……面影は、十分にあった。
「……あら、どなたかしら?」
しばらく視線を送っていたせいで、俺の存在に気づいたらしい。
母親がこちらを見上げて、のんびりとした声で問いかけ、首を傾げた。


