また深々と礼をして、リビングを去っていった野坂さん。
その姿を見送ってから、俺はゆっくり、庭の方へと首を回した。
気づかなかった。レースカーテンの向こうに、たしかに人影がほんのり透けている。
……母親が、すぐそこに。
気持ちがひるみそうになるけれど、ぐっとこらえて立て直した。
会うと決めた。心を決めてきた。だから、行ける。
強い気持ちをもって、掃き出し窓の前まで足を進める。
レースカーテンに手をかけて……指先が少しふるえているのを認めたくないがために、シャッと勢いよく開いた。
「……!」
先程までのシルエットが、リアルな人となって現れる。
イスに座っている黒髪ボブヘアーの女性が、こちらを振り向く。
「……っ」


