昼と夜の間で、僕らは手をつなぎ合う


「涼さんも……驚いたでしょう。わたしがえらく年寄りなものだから」

「あ……いえ、そんなこと……」


とっさに否定はしたものの、驚いたのは本当だった。

母親の再婚相手は、母親と同じ、三十代くらいの男性かと思っていたから。


だから野坂さんは母親にとってなんなのか、確信しきれずにいたんだ。


「……歩美さんとは、二十ほど離れているんです。妻と死別して、すっかり気持ちが沈んでいたときに出会いました」


そこで野坂さんが、はじめて紅茶に口をつける。

ほとんど音を立てることなくカップをソーサーに戻し、野坂さんは続けた。


「歩美さんはいつも笑顔で……見ているだけで元気になれました。わたしたちは、男女の関係というよりも……どちらかというと、親子に近いような関係かもしれません」


俺のほうはカップに触れることなく、口を挟むこともせず、ただ野坂さんの話を聞く。

俺を置いていったあとの母親に関する……知るよしもなかった話を。


「わたしと暮らすことになる前。歩美さんはわたしに教えてくれました。置き去りにしてきた子供がいる……と」

「……!」

「十代のうちに家出して、妊娠して、けれど相手は逃げてしまって……ひとりで産んだと。必死に育てるうちに、また好きな人ができたけれど……子ども付きなら一緒にならない、と言われたと。それで……」


野坂さんの話の生々しさに、ごくりと生唾をのむ。

そうか、と思った。母親は、ふたつを天秤にかけた。

自分の女としての幸せと、子どもである俺を。そして……前者をとったんだ。