昼と夜の間で、僕らは手をつなぎ合う



――野坂。

それが、今現在の母親の名字だという。


二度電車を乗り換えたのち。祖母から教えられた住所を元に歩いていけば、野坂という表札がついた家は、すぐに見つかった。


俺の住む家とは違い、現代的な造りの家だ。

瓦屋根ではなく加工された人工的な屋根。

家の前に立っている茶色いポストの下にはきちんと枝を切りそろえられた小さな木があり、丁寧な暮らしをしていることがうかがえる。


……あの人はここで、暮らしているのか。

どうにも言い表せない、複雑な気持ちが胸に生まれた。

もっと荒れ果てたあばら小屋にでも住んでいたのなら、スッキリしたのだろうか。でもそれも違う気がする。


今から、母親に会う。もうすぐそこに母親がいる。

いったい自分の気持ちがどう傾くか、どう変化するか。はたまた、なにも変化しないのかはわからない。


ただ、会わなければ自分が変われないのだけは、たしかなことだ。


――許すことは、自分を救うこと。

永田さんから伝え聞いた言葉を、頭の中に呼び起こして、目を閉じる。


許せるとは思えない。でも幼いころからの呪縛を解けるのは、自分以外にはいないから。