美和のお母さんは、美和のことをろくに顧みない人で、家に帰ってこない日が続くこともあったと。
暴力をふるわれるようなことはなかったものの、同じ部屋にいるとため息をつかれたと。ずっと寂しい思いをしていたと。
だから、わたしから楽しい親子話を聞くたび、羨ましい思いがふくらんで。
そしてそれがいつの間にか……妬ましい、に変わっていってしまったこと。
「温美だけずるい。温美は全然、わたしのことをわかってくれない……そんなことばかり、裏で思うようになっていった。言ってないから、伝わるはずないのにね。でも、あのときのわたしは……お母さんに冷たくされるたびに、見てもらえてないって実感させられるたびに……その鬱憤を、温美に向けるようになってたの……っ」
知らなかった事実に、耳がしびれる。
痛々しいほどふるえながら、美和は言った。
「……〝悪口を、言ってる〟って」
「……っ!」
「そんな、最低なウソを言ってしまったきっかけは……すごく、ささいなことだった。温美がね、言ったの。お母さんが今日トースト焦がしちゃって、表面剥いで食べないといけなかったんだよーって。その日、わたしはなにも食べずに学校に来てた。お母さんが、お金を置いてくれてなくて、家にはなにもなかったから……わたしは、温美が、妬ましくて、妬ましくて……それで……っ」


