だから……しっかりと外観を見るのは、数年ぶりだ。
「……は」
待ち合わせの時間直前。
照る太陽に焼かれながら歩いてきたわたしは、喫茶店の前で立ち止まり、大きく息を吸って吐いた。
……大丈夫。
胸のざわつきをおさえるように、自分にそう言い聞かせる。
美和と会うことが決まってから、わたしはもう何回も、何十回も、この呪文を心で唱えてきた。
大丈夫。わたしには、お母さんもお父さんも、そして雨夜くんもついている。
それに、絶対に逃げないって決めた強い心が、この胸にある。
大丈夫。過去に味わった消え入りたい気持ちも、朝が来るのを恐れる気持ちも、全部に向き合える。だから……。
目に力を宿し、勇気を振り絞って、わたしは店のドアノブに手を伸ばす。
でもその指先はわずかにふるえていて、一度手を引っ込めてしまった。


