薄れてはぶり返し、引きずり続けて。ずっと自分を、嫌な人間だと思い続けて。
それって本当は、一番苦しいんじゃないかな。
『どうやって過去を……乗り越えたんですか。どうやって……許せたんですか……?』
藪内さんにした問いかけ。もらった答えが、あれからずっと頭を回っていた。
そんなのありえないって。でもどこかで、そうかもしれないって。
雨夜くんのお母さんは、若年性アルツハイマーだという。
このまま症状が進行してしまったら、もう二度と対面するチャンスはない。
……ないんだ。
「……〝許すことは、自分を救うこと〟」
ぽつりと呟いて、それからしっかり前を見て、わたしは話し出す。
「藪内さんがね、そう言ったの。この間、偶然会うことがあって……それでね、わたし聞いたんだ。藪内さんは、戦争ですごくひどい目にあったりつらい経験をしてるのに……どうしてそんな風に、おだやかでいられるのかって。どうして過去を許せるのかって」
「……っ」
「そうしたら……言ってくれたの。許すことは、自分を救うことだって」


