シーズンにはまだ早いからか、まわりにほとんど人は見当たらなくて。嬉しいことに、貸切状態だ。
――ザザン、ザザン。
寄せては引いていく波の音が、耳にとても心地よい。
手招く波の際まで来たわたしたちは、どちらからともなく、ギリギリ濡れないところにしゃがんだ。
「永田さん。せーの、で海に手、つけようか」
海って青のイメージなのに、海水自体は透明だな……なんて思っていると、雨夜くんが言った。
開いて構えられた両手。浮かんでいるのは、おどけた笑み。
いつものおだやかな笑みとはまたちがうその表情に、わたしの心の温度は上がる。
目の前にある、飾り気のない雨夜くんの姿。
二次元の人みたい、なんて。そんなこと、もう思わない。


