「俺、昨日彼女できたんだよー! 入学当初から可愛いと思ってた子でさ!」
「コイツうるせーんだよ、惚気ばっかで。俺なんかむさくるしい男連中と野球づくしだっつの」
「いいんじゃんよー! 初彼女だぜ⁉︎ 人生初‼︎」
盛り上がる元同級生たち。胸の中心で、ざらりと摩擦音が起こる。
「雨夜はさ、仕事どう?」
貼り付けた笑顔と心が、どんどんずれていくのを感じる中、俺に質問が飛ばされる。
「あーっと、印刷工場だっけ?」
「やっぱつなぎとか着るわけ?」
普通のトーンで発された声。
なのにバカにされたように聞こえて、心の揺らぎを隠すために、もう一枚笑顔を貼る。
「……うん、つなぎ。けっこう楽しいよ。店に並ぶものを作るから、やり甲斐もあるし」
「雨夜って絶対スーツ似合うのにな!」
「な! エリートって感じの!なのに、なんかキッツいよなぁ」
顔だけでなく、喉もひくつく。
自然な笑顔が出ない。笑え、という脳の指令をはさんでから、コンマ数秒の遅れで俺は答える。
「ありがとう。でも案外、つなぎもしっくりくるよ」
「えー? ま、雨夜なら何でも着こなせるか!」
「はは。じゃあ俺、家に戻らなきゃいけないから」
「おー! じゃあな!」
笑ったまま、きびすを返す。
こめかみのあたりの血管が、ドクドクと脈打っている。


