「バスケ、少しは自信ついた?」
「うんっ!もう、今日の練習があるのとないのだったら、雲泥の差だよ!あ、でもわたし基準だから、下手なのには変わりないけど……!」
傘を持っていないほうの手でガッツポーズを作り、一生懸命話す永田さん。
ほほえましく思いながら聞いていると、永田さんは力説具合が恥ずかしくなったのか、ハッと口を結んで視線をそらした。
肩先の位置が少し上がる。緊張の印に、ふっとほおがゆるんでしまう。
そうしているうちに、駅が近づいてくる。
家から駅までの距離を、いつもよりずっとあっという間に感じた。
「あの、ここまでで大丈夫!」
永田さんが足を止め、体をこちらに向ける。
「雨夜くん、今日はほんとにありがとう……!」
「ううん、こちらこそ」
「おばあさんにも、よろしくお伝えください!」
「はは、うん。気をつけてね」
何度もペコペコと頭を下げて、駅の改札に吸い込まれていった永田さん。
彼女の姿が見えなくなったのち、口からこぼれたのは。
「……まいった」
そんな、降伏のセリフだった。


